
夢を洗う人
秋の川が流れている。
じゃり、じゃり、と人の願いがこすれる音がする。
人の感情は丁寧に洗えよ、という叔父の声がする。
その意味を理解するには、まだまだその時の俺は若かったんだ。
人の夢を洗え、と、ある日叔父から頼まれた。ずい、と出されたその手には、小さな石ころが入った網が握られていた。何の変哲もない、そこらの川原にありそうな石。
これを?これをどうすればいいのかと、叔父に尋ねたら、くい、と顎で山の方を指し示された。どうやら、あそこの山で洗うらしい。
叔父の後を着いて、山を登る。緑生い茂る山の中は、ひんやりとして涼しい。さわさわと、風が吹き抜ける度に、葉が音を鳴らす。相変わらず叔父は、例の石の詰まった白い網を片手に、むんず、むんず、と黙々と山を登っていく。タンクトップからのびる腕は、昔と変わらず日に焼けていて、つやつやと健康そうに光って見えた。
叔父と二人、河原に並んで、水面を見つめる。白い飛沫が、深い色をした水の流れの中で、跳ねていた。
ここで、夢を洗うの?と問うと、叔父はただ応、と頷いた。ざぶざぶと、水面を分け入っていく叔父の後に慌てて続いて行く。
水流に足をとられないように、前屈みになって、叔父の手元を観察する。ひた、と水面にさらされた網は、すぐに、ぼやぼやと輪郭が分からなくなった。夢を洗うのは、初めてのことでよく分からなかったから、じいっと様子を見つめる。ジャブジャブと石を激しくこすっては、水面から出し、空気にさらす、これの繰り返しだった。
お前もやってみろ、とぽんと網を差し出される。よく分からず、見様見真似で叔父のやった通りに、恐る恐る石を水に浸し、こする。時々、水を切るように水中から出して、払う。
ドキドキしながら叔父の顔を見上げると、不満そうな表情をしていた。何か間違ったのだろうか。うーん、と唸っていると、お前な、と上から声がかけられる。
「お前な。人様の夢に触れるのに、そんなおっかなびっくりだと、かえって失礼だぞ。ちゃんと触れ。」
え、と目をぱちくりさせてると、貸せ、と横から網をむんずと掴まれた。叔父がすかさず、ごしごしと力強く洗う。無骨そうな手つきに見えて、その実、叔父なりの愛情がこもっているのかもしれなかった。
真摯になれ、と呟かれた。真摯に向き合えよ、と。
「人の夢の輝きは、ここで終わるものじゃないんだぞ。」
だからお前も真っ向から、ちゃんと向き合えよ。いい夢になるから。
そう呟いた叔父の背中は今も昔も変わらず、人の夢を磨き続けてきた人の背中だった。自分もこうなりたい、と。優しくなりたい、と思った。
十二の夏と秋の境目、川での出来事だった。